野焼き

野焼き(のやき)は、野外・野山で植生を計画的に焼き払う事。

日本の野焼き

日本では伝統的に、先のまだ草本の新芽が出ない時期に、野山の枯れ草を焼く事が多い。山焼きとも言うまた、田の畔や河川敷を焼くことも野焼きということもある

日本の自然の状態では酷寒地を除き、草原森林へと遷移する。野焼きや採草、放牧を行うことで、この遷移がリセットされ、初期状態の草地に戻る。このように人為的に手を加えることで維持されている草原を二次草原(半自然草原)といい、採草地や放牧地として利用されてきたほか、特に野草地では特有の生物相を形成する。野焼きは、地下に生長点を持つ草本植物を生かしつつ、地表を覆う有機物や、地上に生長点を持つ木本植物を減らし、また炎などによる地温上昇や発芽誘導物質(カリキン)の生成などにより土中種子の休眠打破を促したり、炭による暗色化(アルベド低下)で地温を上昇させたり、有機物を無機塩類とすることで新たに出る若草のための肥料としたり、ダニなどの害虫を焼き殺す効果も期待される

野焼きに関する春の季語には「野焼」や「山焼」、「野山焼く」、「野火」、「畑焼」などがある

また現代では、農業機械化に伴い稲藁などのの野焼きが盛んにおこなわれるようになり、一時は稲作付面積の25%で野焼きされるなど社会問題となったが、法令による規制のもと、圃場すき込み技術などの普及で次第に改善されている

日本各地の山野の野焼き

法令上の規制

森林法により、森林やその1キロメートル以内の土地で野焼き(法律用語では「火入れ」)を行う場合はその所在地の市町村長の許可を得なければならない。森林法で規制される火入れとは、土地の利用を目的とした面的な焼却をいうが、焼却物を複数箇所に収集しての「寄せ焼き」や、筋状に収集しての「筋焼き」も実質的に火入れとみなされる

また、消防法に基づいて地方公共団体が定める火災予防条例により、通例は「火災とまぎらわしい煙又は火炎を発するおそれのある行為」として消防機関への届出をしなければならない火災警報発令中は同条例の制限に従う必要があり(法22条)、その他火災予防上必要な時には禁止命令などが出される場合もある(法3条)。

田畑などで行われる作物残渣の野焼きは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)において、焼却禁止の例外とされるが、生活環境への影響のいかんにより、直罰規定(行為を罰する規定)と間接罰規定(命令違反を罰する規定)の2段階で規制される。このほか青森県秋田県など一部の地方公共団体では、条例によって別途に規制を加えている
直罰規定
廃掃法では、原則的に法定基準外の焼却は不法焼却として処罰の対象となるが、例外として「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」や「震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却」にあたる野焼きは罰則になじまない行為として除外される(法16条の2、施行令14条)。例外にあたるには、周辺の生活環境への影響が軽微であることが要件とされるが、具体的な線引きはない。「やむを得ない」の要件も、個別具体的な事情で判断されるが、煙害を伴うため他の方法より公益上有効であることが求められることがある。廃ビニールや家庭ごみの野焼きは不法焼却にあたる。家庭菜園やレジャー農園はここでの農林業に含まれず、造園業や植木屋などの園芸サービス業は条例により明文的に規制されることがある。
間接罰規定
焼却禁止の例外にあたる野焼きも、法定基準外の焼却であるため、生活環境保全上の支障を生じうる行為として、措置命令(法19条の4)などの対象となり、命令違反は処罰の対象となる。ここでの「生活環境」とは環境基本法での定義に準じて「社会通念に従って一般的に理解される生活環境」などをいい、措置命令の発出は「高度の蓋然性や切迫性までは要求されておらず、通常人をして支障の生ずるおそれがあると思わせるに相当な状態をもって足りる」とされる
罰則
平成以降、不法焼却の厳罰化が進められており、未遂罪 25条第2項(点火など)や、目的罪(収集・運搬) 26条第1項第6号も定められる。不法焼却(未遂を含む)や措置命令違反の罰則は、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその両方であり 25条、不法焼却に法人がかかわる場合は3億円以下の罰金が法人に併せて科される 32条。不法焼却の目的罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその両方であり、法人がかかわる場合は300万円以下の罰金が法人に併せて科される

環境影響

総務省の「平成30年度公害苦情調査」によれば、野焼きは日本国内で最も多い公害苦情の発生原因であり、全体の18.3%(12,243件)を占める。また総務省消防庁の「平成30年(1~12月)における火災の状況(確定値)」によれば、火入れは日本国内で6番目の(たばこ、たき火、こんろ、放火、放火の疑いに次ぐ)火災原因であり、全体の4.9%(1,856件、死者18名)を占める林野火災においては、たき火に次ぐ2番目の原因であり、全体の18.9%(258件)を占める。

野焼きは微小粒子状物質(PM2.5)の主要な国内発生源のひとつと考えられており、2015年から環境省のPM2.5政策パッケージにおいて排出抑制が検討されるようになった。環境省は、野焼きが地域のPM2.5濃度に与える影響が高まりやすい気象条件として、弱風や、秋から冬にかけて晴れた日の夜間に形成されやすい逆転層、高湿度を挙げ、こうした条件での野焼きをしないよう求めている。また含水率の高い作物残渣はPM2.5の排出量を増加させる。環境省の「PM2.5等大気汚染物質排出インベントリ」によれば、2015年度の作物残渣の野焼きによるPM2.5一次粒子の推計排出量は約1万3千トンであり、国内排出全体(約12万トン)の約1割を占める。またその他の大気汚染物質として、揮発性有機化合物約1万1千トン、硫黄酸化物約1,300トン、窒素酸化物約8千トン、アンモニア約3,500トン、一酸化炭素約12万トンの年間排出量が推計される(2012年度データ)。麦や稲の野焼きで発生するPM2.5粒子には、一般大気中のPM2.5と同程度もしくはそれ以上の毒性があると考えられベンゾ[a]ピレンなどの発癌性物質も含まれる

国立公園など自然保護区における野草地の野焼きは、採草や放牧とあわせ、二次草原環境や生物多様性の維持に有用な管理手段のひとつとして行われており、環境省は自然再生推進法などに基づき支援している。草地の野焼きの量の正確なデータは把握されていないが、1,000ヘクタール以上の主要な野焼き実施地の5箇所(計24,400ヘクタール)を想定し、単位ヘクタール当たりの平均焼却量を10トンとする概算(日本国温室効果ガスインベントリ)があり、単純計算で244キロトンのバイオマス焼却が行われうると想定される。野焼きは土地の炭素貯留を減少させると一般的には考えられているが、阿蘇の二次草原(約16,400ヘクタールの野焼き地)では、文献上は千年以上前から(延喜式に基づく説)、土壌分析によれば一万年以上前から野焼きがおこなわれ、かつ耕起がおこなわれてこなかった結果、土壌に蓄積した炭と植生由来の有機物により、土壌炭素の貯留が高められていると考えられている

作物残渣の野焼きは、従来は堆肥化により利用されてきた有機物を焼却して省力化を図るという、比較的新しい手法として用いられてきた。特に稲作における野焼きは、農家の担い手減少を背景として、昭和40 - 50年代の自脱型コンバインなどによる機械収穫の普及に伴い増加し、その煙害は「稲わらスモッグ」と呼ばれ社会問題化した。野焼きはこうした公害や、火災など事故の原因となるほか、地域における農産・観光のイメージ低下や、焼却により有機物の土壌への還元量が減少し、地力・収量低下につながることが示されるなど、営農面においても問題があることから、農協や行政機関における土づくり運動が興り、地力増進法。}}、持続農業法持続農業法では、有機物の循環など持続性の高い農業生産方式を実践する農業者を認定し、資金支援や都道府県の環境ラベリング制度において優遇措置を設ける。、GAP(適正農業規範)や農林水産省GAP共通基盤ガイドライン(またその先鞭となった農業環境規範)をはじめ、多くのGAP規範・規準では、作物残渣など副産物の循環的な利用や環境汚染の最小化を求めている。2018年度には環境保全型農業直接支払の要件として国際水準GAPの実施が定められた}}などの政策において、作物残渣は焼却せず利用することが奨励されるようになっている。日本国内での作物残渣の焼却量は、都道府県が把握するデータからの算出では、稲(藁・籾殻)で1990年には1,019.5キロトン、2016年には295.4キロトン、麦類の焼却割合は2007年度には13.5%、2016年度には7.7%である。地域の取り組みによっても違いがあり、例えば米の最多産地(2018年時点)である新潟県では、1993年には独自の指導要綱を制定するなど作物残渣の適正処理を積極的に推進し、稲藁の焼却割合(対作付面積)は、1995年度には6.9%(9,451ヘクタール)、2017年度には0.0%(36ヘクタール)となっている青森県では2010年に稲藁の適正処理を推進する条例を制定し、作付面積の1%まで野焼きが減少したが、一部地域では根強く残る

事故例

  • 1977年3月25日、福岡県北九州市小倉南区平尾台での野焼きで強風による飛び火で山林火災が発生し、207ヘクタールの山林・原野を焼損、消火作業中の消防士5人が犠牲となった。
  • 2002年3月20日、山梨県西桂町中央自動車道富士吉田線で、走行中の乗用車が道路脇斜面の火災による猛烈な煙により視界を失い路上で停止し、それに後続の車が次々と追突した。14台が関係する多重衝突事故(玉突き事故)となり3人が死亡し2人が重体、9人が重軽傷を負った。事故の主因となった煙は現場近くに住む男性が行っていた野焼きが延焼したことによるためとされている。なお、野焼きを実施していた男性はそれによる火災の発生のみに関し責任を問われ、多重衝突事故そのものについては「視界不良が発生した際の事故の回避責任そのものはドライバーに帰する」とされたという。
  • 2009年3月17日、大分県由布市湯布院町の原野で行われた野焼きで、参加者4人が焼死し2人が重軽傷を負う事故が発生した。当日は乾燥注意報が発表されており、市条例で火入れが禁止される状況であったが市も消防署も慣例により条例違反を黙認していた。目撃証言によれば、現場では火災旋風とみられる現象が発生していた。
  • 2010年3月20日、静岡県御殿場市小山町裾野市にある陸上自衛隊東富士演習場で、毎年恒例の野焼きに参加していた御殿場市在住の民間人男性3人が炎に巻き込まれ死亡した。当日は記録的な強風が吹いていた。実施団体の事故当時の幹部2名が業務上過失致死罪の容疑で起訴され、2017年2月24日の静岡地裁沼津支部の判決では2名とも有罪となったが、2019年1月23日の東京高裁の控訴審判決では2名とも無罪となり、東京高検の上告断念により無罪が確定した。
  • 2015年4月18日、長野県南牧村平沢の畑で所有者の男性が実施していた野焼きが下草に延焼した。炎は約1時間後に鎮火したが約3,700平方メートルを焼き、焼け跡から男児の遺体が見つかった。警察は一緒に畑に来ていた男性の長男(2歳)とみて確認を進めている。
  • 2017年2月19日、山口県美祢市秋吉台で行われた恒例の山焼きで、火入れ作業をしていた男性1人が焼死した。当日は山口県内全域に乾燥注意報が出ていた

日本国外の野焼き

熱帯諸国では、熱帯林を野焼きすることによる焼畑農業が広く行われている。本来の焼畑は短期間の利用の後に放棄され森林として再生される。しかし近代では一部において、再生を前提としない大規模かつ永続的な野焼きまで「焼畑」と誤認されている。草原の野焼きはアフリカなど世界各地の草原で主に放牧のためにおこなわれており、ロシアのステップや北アメリカのグレートプレーンズにおける研究では、土壌の窒素を放出させたり、野焼き後に成長する若い植物は収量は減るが栄養価や採食嗜好性は高まるといったことが知られている。長期間放置された森林または草原は巨大な燃料が蓄積している状態にも等しく、一度山火事を起こすと大規模かつ制御不能な山火事に発展しやすい。そのため制御下の野焼きによって可燃物を減少させることで山火事を防ぐ対策も行われている。一方で野焼きが延焼したとみられる山火事も発生している。

穀類豆類サトウキビの残茎・藁稈・殻・葉などの作物残渣の野焼きは世界各地で多くは規制のもとでおこなわれており、経済合理性をもって処分できる他の方法がないためおこなわれるほか、伝統的に雑草・病害虫制御に必要な手法であると考えられている世界銀行によれば、上位の国として中国、インド、米国、ブラジル、インドネシア、ロシアが挙げられるほか、アフリカ、メキシコ、タンザニアなどで割合が高く、この数十年の間に世界の多くの国々で増加した。野焼きで得られる草木灰は、有機物そのものより窒素飢餓のリスクが少なく、カリウムなどを含む肥料として利用できる。一方で、燃焼に伴い栄養の多くや有機物の土づくり効果が失われることが知られているアジア工科大学院のMohammad Esmaeil Asadiによれば、稲藁の野焼きは炭素のほぼ全量、窒素の99%、リンの18%、カリウムの44%を失わせる。オーストラリアのビクトリア州政府によれば、小麦藁の野焼きは窒素の80%、リンの40%、カリウムの60%、硫黄の50%を失わせ、また長期的には土壌の酸性化を招く。高温に曝された土壌は一時的に交換性アンモニア態窒素や重炭酸塩抽出リンの画分が増加するが、長期的には理化学性・生物性のいずれも低下すると考えられている

国際的に野焼きは、局所的な大気汚染とそれに係わる疾患・死亡原因として、また圃場の地力低下や土壌侵食の原因として認識されている}}。また雪氷圏の温暖化に影響が大きいの排出源として最大の分野であると考えられている。温室効果ガス排出の観点では、二酸化炭素についてはカーボンニュートラルと捉えることができ、メタン一酸化二窒素についても全体への寄与は目立たないが、土壌微生物に影響を与え土壌の温室効果ガス排出を増加させる。の農業イニシアチブは、環境保全を伴う生産性向上や、健康状態の改善のほか、とりわけブラックカーボンの排出抑制を目的として、2015年から作物残渣の野焼きの抑制計画を開始した。野焼きに代わる作物残渣の有効利用法としては、不耕起栽培などのマルチング、圃場すき込みや堆肥化、飼料・敷料といった耕畜連携のほか、紙やバイオプラスチックなどの素材原料、バイオ燃料原料やバイオ炭原料として利用する取り組みがある

東南アジアでは、インドネシアでのプランテーションを目的とした違法野焼きが原因の森林火災・泥炭火災が例年発生しており、しばしば深刻な煙害や越境汚染となり社会問題となっている。詳細はヘイズ (気象)を参照。

ブラジルアマゾン川流域では、開墾を目的とした野焼きが原因の森林火災が例年数万件発生しており、2019年には過去最多となり国際問題にも発展した。詳細は2019年アマゾン熱帯雨林火災を参照。

インドでは、作物残渣の野焼きによる煙害が深刻である。ハーバード大学NASAほかグループの研究によれば、季節によってはデリーの大気汚染の半分は農業の野焼きに起因するといわれる。野焼きの背景には担い手不足と収穫の機械化があり、法律で規制されているが事実上遵守されていない。対策のひとつとしてハッピー・シーダーと呼ばれる不耕起栽培での二毛作のための農機(刈り取りと同時に播種し藁マルチングをおこなう)がの事業計画のもと開発され、野焼きの抑制と地力・収益向上が図られている。また家具大手のイケアは、藁を製品材料にすることで野焼きを減らす「Better Air Now」という計画を2018年に発表し、インドで開始した

中国では地方政府により作物残渣の野焼きが禁止されている。かつては違法な野焼きで得られる草木灰肥料に依存する農家が多かったが、2008年から中央政府により作物残渣の有効利用が推進され、大きく改善した

イングランドおよびウェールズの法律では、穀類・豆類・アブラナの作物残渣の野焼きは、教育目的や、法律で定められた病害虫処理、破損したロールベールなどの片付けを除き禁止している。また前述の教育目的・病害虫処理や亜麻の作物残渣の場合は、夜間や土日祝日の野焼きを禁止し、面積や周辺環境、従事者、通知、消火設備、燃焼灰の処分などの条件を設けている。またヒースや草原の野焼きについても、季節、時刻、従事者、設備、通知などの条件や許可制を設けている。

カナダマニトバ州の法律では、夜間の作物残渣の野焼きを禁止し、日中は季節による規制期間や許可制を設けている

オーストラリアサバナではアボリジニが狩りのためにおこなう小規模な野焼きが5 - 12万年前から続けられている。モザイク状に焼け野が形成されるため、結果的に生物多様性の維持と山火事の延焼抑制に役立っていると考えられている。

注釈

出典

関連項目

外部リンク

wikipediaより

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