渋滞

渋滞(じゅうたい、英語:traffic jam、traffic congestion)とは、交通施設(道路鉄道など)の能力を越える動体の流入により移動速度が遅くなった状態をいう。道路交通上の交通渋滞(こうつうじゅうたい)を特に渋滞と呼ぶこともある。

定義

交通工学における渋滞の定義は、「ボトルネックにその区間の交通容量を上回る交通流率の交通需要が到着した時に、当該区間の上流に生じる低速の待ち車両列によって形成される交通状態」を指す。特に、交通信号機や合流部はボトルネックとなりやすい典型的な道路上の区間である。なお、「交通容量」とは特定の道路空間に単位時間当たりで通すことのできる車両数をいう。また、「交通流率」とは特定の道路空間に単位時間あたりに到着する車両数をいう。

一般的には、自動車が停止あるいは、一定速度以下のノロノロ運転で走行する自動車の列が数珠つなぎになった状態を渋滞と呼んでいる。渋滞長がいくら長くても、1回の青信号で信号待ち車列が全て捌ける場合は、一般には渋滞とは呼ばない。また、人の長蛇の列に対しても渋滞とは言わないこの「人の長蛇の列」のことは、「渋滞」ではなく、「行列」と呼ぶ。。渋滞の内容は様々で、例えば20 km/h(キロメートル毎時)以下で走行している状態でも、停止して車列が動かない状態であっても渋滞であるそもそも、「停止して車列が動かない状態」は、「20 km/h以下」に含まれる。なぜならば、「停止して車列が動かない状態」=0 km/hであり、0 km/h < 20 km/hであるからである。。車列の長さについても、正確な距離が定められているわけではないが、連なる自動車の列の長さが1キロメートルを越えた状態を渋滞と言っている。

日本の高度経済成長期に起こったモータリゼーションで一般大衆に自動車が普及する以前の自動車があまり走行していなかった時代では、「渋滞」という用語自体が一般に使われていなかった。日本における初めての大規模かつ本格的な渋滞は、1960年昭和35年)10月6日に大阪市内で発生した10時間にわたる交通マヒによる大渋滞であるそれは大阪市電全廃(1969年)の引き金となり、さらに1960年代から1970年代にかけて全国各都市で相次いだ路面電車廃止の遠因ともなった。。また、日本で初めて渋滞という用語が使われたのは、1961年(昭和36年)に警視庁がラジオの文化放送で、世界初となる交通情報を放送したときだといわれている。

なお、「渋滞」は自動車交通に関していうことが多いが、運河で船舶の通航量が増加するなどの理由で通航が滞っている場合も「渋滞」と表現されている

渋滞の悪影響

渋滞は人流・物流の所要時間を増加させるため、到着時間を遅延させ、時間的損失からくる生活や産業活動・経済活動に負の影響をもたらしている。

また、渋滞は交通事故増加の原因となっている。例えば、生活道路抜け道を目的とした車両が流入することでコミュニティ空間の安全性・快適性を損なう事例もみられる。

さらに、渋滞による車両の速度低下による無駄な燃料消費により、二酸化炭素窒素酸化物などの物質が排気ガスとなって多く排出され、騒音などの環境悪化につながる原因となる。そして、渋滞によるストレスから些細なことでトラブルに発展し、犯罪を引き起こしている原因となることも珍しくなくなっている。

都市問題ではモータリゼーションと渋滞の悪化は相互に関連しており、渋滞によりバスやパラトランジット等の所要時間が長くなり公共交通の利便性が悪化すると人々はますます自動車やオートバイを利用するようになり渋滞を悪化させる悪循環を生じる。渋滞の発生は都市などの美観の問題として取り上げられることも多い。郊外部ではスプロール現象(自動車利用を前提とした無秩序で散発的な開発)が発生すると公共交通の導入が難しい都市構造となる。渋滞の深刻化が渋滞対策への費用の増加につながり財政負担の増大につながることもある

年齢が若く、良心的ではなく、運転にあまり熱心でない人々は、ドライバーの退屈に苦しむ可能性が高いという実験結果が出ている。運転に熱心な人々は、運転することに集中しているため、ドライバーの退屈に苦しむ可能性が低いという実験結果が出ている。ドライバーが運転に集中すれば、他事に気を取られず、退屈に苦しむということがなくなるからである

各国・各地域における渋滞

2010年、米外交専門誌フォーリン・ポリシーは、世界で最も交通渋滞が深刻な都市として、モスクワラゴスメキシコシティサンパウロ北京市の5つの都市を挙げている。このうちサンパウロでは2013年11月に、それまで世界で最も長いといわれた165マイル(約265 km)超の記録を塗り替え、309km以上の渋滞を記録している。その他にも2010年8月14日には、中国の北京~ラサ間のG110国道京蔵高速道路で100キロに及ぶ渋滞が10日以上にわたって続いた。またBBCの2012年の調査によれば、バンコクジャカルタナイロビマニラムンバイの上位5都市が、渋滞が深刻な世界の都市としてランクインしているNHK BS1キャッチ!世界の視点」でもジャカルタを取り上げた。

世界三大渋滞

異説もあるが、以下の3都市は世界で最も渋滞の発生する都市と言われている

オランダカーナビゲーションメーカーが2016年のデータをもとに交通渋滞がひどい都市のランキングを発表したが、上記の3都市がワースト3を占めている

交通データ解析を行うアメリカが世界38か国、1064都市を対象に渋滞状況を分析した2016年版の調査では、ワースト3はロサンゼルスモスクワニューヨークとなっており、バンコクは12位、ジャカルタは22位であった

米国における渋滞

自動車が普及する前のアメリカの都市では馬車交通が主流であったが、馬の死体が放置されて衛生問題や交通渋滞を引き起こした。自動車は馬のように「死なず」、交通環境を改善させるものとして期待され、その後モータリゼーションの時代に突入する。

テキサスA&M大学テキサス交通研究所の調査(2004年)では、アメリカの都市部のドライバーが渋滞で動けなくなっている時間は1992年には年16時間だったが、2002年には年46時間まで悪化したリチャード・フロリダ『クリエイティブ資本論』ダイヤモンド社刊(2007年)

交通渋滞対策への財政負担は1982年には年間約140億ドルだったが、2004年には年間約630億ドルにまで膨れ上がっている

2004年のテキサスA&M大学テキサス交通研究所の調査によると、ロサンゼルスでは年間平均93時間、サンフランシスコで年間平均73時間、ワシントンDCで年間平均67時間の遅延が発生している

日本における渋滞

日本国内における渋滞の損失時間は1人あたり年間約40時間(2012年度データより)とされている。産業活動における道路交通の役割は大きく、渋滞によって国内産業活動の効率化や産業の競争力向上にとって大きな足枷となる。そのため、警察庁国土交通省地方自治体と協力し、徹底して渋滞の解消を目指している。

日本における定義

交通渋滞の定義は、道路管理者や交通管理者ごとに異なっている。例えば、警視庁では統計上、下記を渋滞の定義としている(警視庁交通部 交通量統計表)平成23年中の都内の交通渋滞統計(一般道路、首都高速道路) 警視庁ホームページ

また、首都高速道路では走行速度が20 km/h以下になった状態を、阪神高速道路では走行速度が30 km/h以下になった状態を渋滞として扱っており、それぞれの道路の特性によって渋滞と判定する「閾値(しきいち・いきち)」が定められている。同じ高速道路でも都市間高速道路に比べて都市内高速道路(首都高速・阪神高速など)はカーブや勾配が急で制限速度が厳しいため、交通サービスが低く、低速であっても渋滞と感じづらく、渋滞と判定する速度が低い。なお、イギリスでは80 km/hで渋滞と感じる報告もあり、渋滞と判定する速度が低い日本人は混雑した交通状態に慣れているともいえる。

総距離の長い渋滞


発生日時 最後尾 先頭 延長 備考
1995年12月27日 名神高速道路 秦荘PA
滋賀県愛荘町、現・湖東三山PA)
東名高速道路 赤塚PA
愛知県豊川市
154 km 日本の渋滞最長記録
滋賀県~愛知県でのゲリラ豪雪による通行止めの影響
1990年8月12日 中国自動車道 山崎IC
兵庫県山崎町
名神高速道路 瀬田西IC
(滋賀県大津市
135 km ||
1995年8月11日 名神高速道路 竜王IC
(滋賀県竜王町
中国自動車道 福崎IC
(兵庫県福崎町
129 km 名神・中国道の下り車線で、お盆休みの帰省の影響。
1995年5月2日 東北自動車道 東北自動車道 126 km 東北道の下り車線で、ゴールデンウィークの行楽客の影響。
1994年8月13日 関越自動車道 水上IC
(群馬県水上町
関越自動車道 川越IC
(埼玉県川越市
122 km ||
2006年8月 東北自動車道 那須高原SA
(栃木県那須町
東北自動車道 館林IC
(群馬県館林市
113 km ||

高速道路における渋滞の多発地点

2014年国土交通省では、日本全国の高速道路において収集した各種交通データを活用し、日本全国の高速道路の渋滞ワーストランキングを発表している。以下に、年間ワースト10を挙げる。
  1. 東名高速道路 下り 横浜町田IC - 海老名JCT
  2. 中国自動車道 下り 中国池田IC - 宝塚IC

開発途上国における渋滞

開発途上国では交通行動の変容によるインフラの整備が追い付いていない状況である。例えば、停電に伴う信号機の消灯や、河川整備の未成熟なために生じる冠水の影響によって渋滞が発生する。また、牛車などの極端に走行速度が遅い車両や路上での故障車両によって渋滞が生じることもある。さらには、交通ルールやマナーが十分に守られていないために生じる渋滞も見られる。
一方で、非効率な信号制御やロータリー交差点の導入など、中途半端な渋滞対策により渋滞を悪化させている例が多い。

開発途上国の渋滞の要因には次のようなものがある。
  • 特徴的な車種構成の問題
開発途上国では自動車と自動車の隙間を走行するオートバイ、小型車両を利用した個人営業によるバスとタクシーの中間的なサービス形態の存在と道路上での客待ち、人力車や牛車など走行速度の遅い車両の存在など特徴的な車種構成が渋滞の要因になっている
  • 交通ルールと運転マナーの問題
開発途上国では特に違法な路上駐車などの交通ルールの不徹底、渋滞時の反対車線の逆走やオートバイの中央分離帯の走行などが問題になっている
  • 特殊要因
その他の開発途上国の渋滞の特殊要因として、ピーク時の政府要人等の通行による車両の通行止め、中古車が多いことによる路上でのエンスト、運転手の資金難による路上でのガス欠、電力不足による信号機の停止、雨季の道路の冠水などがある

渋滞の種類

渋滞は発生原因によって自然渋滞突発渋滞の2種類に大別される。
自然渋滞:既に道路上にあるボトルネックによって発生するもので、ボトルネックに流入する交通需要が推定できるならば渋滞の区間や規模をある程度把握できる。。「交通集中渋滞」とも呼ばれる。交通需要を交通容量で割った数値を混雑度といい、混雑度が1.0以上の交通需要がその道路の交通容量を上回った際に自然渋滞は発生する。慢性的に渋滞が発生している道路では、交通需要が交通容量を大きく上回っている状態が常時続いていると考えられている。自然渋滞の原因となる代表的なボトルネックは信号交差点や高速道路でのサグ部が挙げられる。
突発渋滞: 交通事故や車両故障などの突発事象が原因で生じる渋滞で、渋滞に関する事前予測ができない。ある区間が一時的に交通容量が低下して発生する渋滞である。

渋滞での交通流

渋滞流では、密に車両が並ぶ部分(密部)と、車頭間隔が比較的長く車両がまばらに並ぶ部分(疎部)が交互になるのが観測できる。この現象は「疎密波現象」と呼ばれる。
この疎密波現象は以下の現象を持っているとされる。
  • 疎密波は交通の進行方向(下流)とは反対(上流)方向に伝播する。
  • 疎密波は、先頭付近では密部・疎部の差がはっきりと現れないが、上流(渋滞の後部)にさかのぼると疎密の差が明瞭となる。また、疎密波は並行する車線の間で同期する傾向がある。
  • 疎部での速度は上限がある(例えば、都市高速道路では時速45 km程度になる)。
  • 疎部で車両が相対的に速く走行できる時間は、ボトルネックでの交通容量が異なっても変化しない。しかし、密部で車両が遅く走行する時間は、ボトルネックでの交通容量が小さいほど長くなる傾向がある。

車間距離を狭くとればとるほど、疎密波現象は起きやすくなるので、適切な車間距離をとることは渋滞を防ぐうえで極めて重要である。

需要の超過する量が大きいほど渋滞する車列は速く延伸しやすくなり、需要の経過する時間が長いほど渋滞する車列は長くなりやすい。そして、道路の需要超過が終わってもすぐに渋滞が消滅しない。

渋滞の原因

道路区間内が均質な交通容量ならば渋滞することはないが、道路の構造などによって交通容量が低い一部区間(ボトルネック)があり、上流からボトルネックとなっている区間の交通容量を超える交通需要が到達すると、交通渋滞が発生する。渋滞の要因を大きく分けると、工事渋滞、事故渋滞、自然渋滞の三つだといわれている。一般道路と高速道路では、工事渋滞と事故渋滞が共通する渋滞発生原因であるが、自然渋滞についてはその性格を大きく異にする。サグ部と上り坂が自然渋滞の主な発生原因になるのは高速道路であって、一般道路での自然渋滞の主な発生原因になっているのは信号交差点と踏切だといわれている。自動車が何らかの原因で速度を落としたとき、あるいは速度を落とす地点を通過するときに渋滞は発生しやすい。日本社会における連休日でレジャーなどを楽しむとした行楽地への渡航で、首都から郊外へ一斉に自家用車で赴くため渋滞が顕著に現れている。

西成活裕は車の減速・発進が続いて、その振れ幅が大きくなっていくことに自然渋滞の原因があると分析している。また、渋滞のほとんどが追い越し車線から発生しており、ある車が追い越し車線に車線変更して割り込んだ際に後続の車がブレーキを踏んで減速。割り込みが複数台続き、これが繰り返されることで車間が縮まるのが原因と分析している。東名高速で発生した約40 kmの渋滞には、たった1台の車の車線変更が原因だったこともある。

一般道路で発生する渋滞

一般道路において発生する渋滞原因のほとんどは、工事や事故を除けば、信号交差点と踏切、車線数が減少するボトルネックである。道路の1車線には1時間あたり約2,000台の交通容量がある。例えば、片側2車線の単路部(立体交差のように信号のない部分)の交通容量は1時間あたり約4,000台であるが、これを超える量の車両が流入すると渋滞が発生する。

信号交差点

信号機がある交差点では赤信号の時間の間に到着した全ての車両が、次の青信号の時間でその信号交差点を通過できない状態であれば渋滞と判断される。ただし、この判断基準は下流に交差点がない「孤立交差点」である場合に限る。

信号機のパラメータ設定は、渋滞の発生有無に大きく影響する。不適切に設定すると、以前は渋滞のなかった交差点に渋滞が発生するようになる。

有効車線数の減少

路上に駐車車両があるとその部分の有効車線数が減るため、交通容量は低下する。特に交差点付近の駐車車両は交通容量を著しく低下させ、特に都市部において顕著である。路線バスバス停に一時停車するだけでも渋滞を引き起こすこともある。沿道の大規模商業施設ロードサイド店舗)の駐車場に入ろうとする道路上の車列も、同じく渋滞の原因となる。このため側道の不足も流入台数の増加をもたらす。

道路工事による車線規制も交通容量を低下させる。道路工事を夜間に行うことが多いのは、夜間は交通量が少ないため、車線規制による渋滞の発生を軽減できるからである。

踏切

踏切では列車通過時に道路が遮断され、特に都市部の踏切は遮断されている時間が長く、「開かずの踏切」と揶揄されることがある。さらに日本の法規制では原則的に、信号機がない場合は遮断されていなくても一時停止が義務付けられているため、踏切によって道路容量が低下して渋滞の原因になりやすい。この状況を解消すべく、連続立体交差事業(鉄道線路を高架線もしくは地下線に切り替える工事)を実施する

事故

狭義には交通事故により、車線が塞がれて起きる渋滞である。広義には火事天災によるものも含める。事故車両が車線を塞いでしまうことにより、後続の車両が進路を変更しようとするため、その右側車線を走行する車両とせめぎ合って交通の流れが悪くなり、放置すれば大渋滞を引き起こすことにつながることもある。

見物渋滞(わき見渋滞)

交通工学の本来の用語ではない。ドライバーが景色や看板、火事、対向車線の事故に目を奪われて脇見したりすることが走行速度の減速につながり、また停車をすることによって渋滞が引き起こされる。また、わき見運転は事故の危険も伴い、こうしたドライバーが事故を起こせば渋滞をさらに悪化させることになる。

高速道路で発生する渋滞

高速道路でのボトルネックの多くは、下り勾配から上り勾配となるサグ部である。一定の交通需要がある条件下で、サグ部で発生する渋滞は、同様の原因で発生するトンネル区間を含めると日本の高速道路全体の8割を占める。

道路交通法では特に定められてはいないが、高速道路上で、渋滞最後尾や、車間距離が詰まって速度が急に低下した場合の自動車の運転手は、追突事故の防止のためにハザードランプを点滅させて、後続車に注意を促す暗黙の了解があり、NEXCO3社でもこの用法を推奨している。

分岐点での渋滞

インターチェンジ(IC)ジャンクション(JCT)では流出、流入が発生するが、本線の車は流入車を入れるため、前車との車間距離を空けるために少し減速したり、追越車線に移動したりする。本線の後続車は車間距離を一定に保とうとして、詰まった車間距離を広げるために速度を先行車より落とす。これが連鎖的に続くと渋滞となる。流入車そのものも遅い速度のまま本線に合流すれば渋滞の原因となりうる。また、流出でもカーブのため40 km/h規制、対向車線からの流出合流、料金所、一般道での渋滞などによって本線まで続くことがある。
織り込み(ウィービング)とは右図のようなものを言う。

料金所による渋滞

料金所ではノンストップで走ってきた自動車が、通行料金を支払うために一旦停止し、その精算に時間がかかるために長い車列が出来ることは珍しくない

関連項目

  • 輻輳(通信網におけるトラフィックの高い状態)
  • 西成活裕 - 日本の数理物理学者。渋滞学を専門とし、現象や原因の研究を行っている。

外部リンク

Category:都市問題

wikipediaより

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