熊本市
上流自治体の農家と連携した地下水涵養・ウォーター・オフセットの取り組み
(1)水道水源である地下水の流動と涵養のシステムが永年の調査研究により明らかにされている。
(2)地下水の涵養域である上流自治体の農家との広域連携が行われている。
(3)水田の多面的な機能を有効に活用しており、ウォーター・オフセットの取り組みとして広がりを見せている。
事例本文
熊本市は、日本一の
地下水都市。
地下水が豊富なことにより、清冽で豊かな
湧水が水前寺・江津湖公園や
八景水谷(はけのみや)公園を形成し、
都市住民のオアシスとなっている。
また、73万
市民の
上水道水源を100%
地下水で賄っている。
しかし近年、一部の地域で
湧水が枯渇し、
長期的に観測してきた
地下水位が低下傾向となっている。
熊本地域の
地下水系は、熊本市を含む11市町村の広域エリアで共有され、
熊本市の
地下水を育む主要な
涵養域は上流
自治体にある。
地下水の主要な
涵養源の多くは上流域の
水田である。
水田が
地下水をつくるという熊本地域特有の
地下水涵養システムは、
約420年前に熊本城主となった加藤清正公などによる
灌漑用水の開発で確立されたという歴史がある。
つまり、熊本地域の主要な
地下水は、阿蘇の火山活動で形成された地質構造と
近世に開発された
水田での
農業による、自然と人為の絶妙なハーモニーの産物である。
しかし、約5割に及ぶ米の生産調整により、
水田から
畑作への転換で
地下水涵養量が大きく減少し、
地下水位は低下し
湧水も枯渇してきている。
このような状況を打開するため、2004年1月、熊本市は市外にある上流域の農家と連携し、
減反した
水田に積極的に水を張る、人工
涵養を開始した。
連携の仕組みは、こうである。農家が、人参や大豆などを栽培する前後に、農地に水を張る。
水張り期間は1ヶ月から3ヶ月。
張った期間と農地の面積に応じて、熊本市が農家に対して
助成金を支払うというもの。
以上の事柄について、熊本市、上流域の大津町、菊陽町、
そして関係土地改良区などで構成される水循環型営農推進協
議会の4者が、協定を締結している。
農地に水を張ることは、単に
地下水の
涵養にとどまらず、
土壌病虫の駆除や地力向上への寄与という営農効果も生み出している。
この
地下水涵養は、
地下水管理の分野においてわが国の代表的な先進事例として海外に紹介されるまでになった。
さらに、地元企業数社が
環境保全活動として取り組み、大きな拡がりを見せてきている。
排出した
二酸化炭素を植林や森林保護などで相殺する「
カーボンオフセット」の
地下水版として、「ウォーター・オフセット」の取り組みが全国で初めて熊本で普及し始めた。
このような取り組みの結果、最近のデータによると、
永年続いた
地下水位の低下が緩やかとなり、回復の兆しも見え始めた。
関連記事
自治体情報
関連URL