副市町村長(ふくしちょうそんちょう)は、市町村において市町村長を補佐し、その補助機関たる職員の担任する事務を監督する特別職の地方公務員である。市町村長が欠けたときにはその職務を代行する。東京都の特別区に置かれる副区長も同等の役職である。副区長と合わせて副市区町村長と総称する場合もある。
本記事においては、改正地方自治法が2007年4月1日に施行されるまで存在した助役についても併せて解説する。旧制度の助役の定員は1名とされていたが、市町村合併や行政事務の拡大によりマネジメント機能の強化が課題になっていた。
地方分権や地方行政改革の流れに沿い、また市町村長の市町村運営・政策立案体制(トップマネジメント)を強化・再構築するべきとの地方制度調査会(内閣総理大臣の諮問機関)の答申第28次地方制度調査会の答申を受け、従前の助役の権限の強化・明確化を目的として、助役を廃して新たに副市町村長が設置されることになった。
従前の制度では助役は原則として定員1名とされていた。また、助役の職務は、市町村長の補佐及び職員の事務の監督、市町村長の職務を代理する、といったことのみが規定されていた。また、収入役を置かない市町村では、助役がその職務を兼ねることができた。
なお、旧制度の下でも、札幌市、仙台市、横浜市、京都市、福岡市、上越市(1999年7月から2002年3月31日まで)など一部の市では対外的に副市長の呼称を用いていた。無論、法的・正式には助役であり、条例等では助役と呼ばれ、その権限も助役と同じであった。
副市町村長制度では定数は条例で任意に定めることができるとされた(第161条)。また、長の補佐や職員の事務の監督だけでなく、政策及び企画を担任すること、長の事務の一部につき委任を受けて事務を執行できることが明確化された(第167条)。
なお、従前の制度では条例で助役と収入役を兼掌させることが可能であったが、改正地方自治法では副市町村長と会計管理者の兼掌は認められていない。
第161条第1項において、市町村に副市町村長を置くことができると定められている。ただし、条例によって、置かないこととすることもできる。また、同第2項において、定数は条例で定めることとなっている。例えば、大阪市においては最大3名、横浜市においては最大4名が定数である。
副市町村長の任期は4年であるが、市町村長は任期内であっても副市町村長を解職することができる。また、住民による解職請求制度もある。
副市町村長が任期中に辞職を申し出る場合、20日以上前に市町村長(市町村長が欠けている場合は市町村議会の議長)に申し出て、その承認を受けなければならない(165条)。
改正前地方自治法では、第161条第2項において、市町村には助役を1名置くことが定められていた。ただし特別に条例で定めることで、2名以上の助役を置いたり、助役を置かなかったりすることができた。人口規模の大きい市では2人あるいは3人の助役を置くことが多く、また逆に行政改革を進める市町村では助役を置かないこともあった。平成の大合併の頃は、合併直後の市町村が、合併前の市町村の助役を引き続き各1名任命し、助役が4名以上の多数になることもあった。
上記事例の後、副市町村長の選任の同意に関する事件については市町村長の専決処分の対象とならないことが、地方自治法上で明文化された。
禁錮以上の刑の執行中であったり、公職時代に収賄罪や斡旋利得罪で有罪となって公民権停止の者は副市町村長になることができない。国会議員、地方議会議員、常勤の地方公共団体職員、検察官、警察官、公安委員会委員、なろうとしている市町村が発注する業務を請け負う会社の役員等も副市町村長になることができない(166条)。
多くの市町村では、当該自治体の幹部職員から指名されることが多いが、都道府県庁からの出向者や中央省庁のキャリア官僚を副市町村長として受け入れるケースもあり、2014年時点で、内閣府から1人、総務省から19人、国土交通省から42人、厚生労働省から1人、財務省から1人、経済産業省から8人、農林水産省から6人の、計78人が副市長として中央から地方に出向している国と地方公共団体との間の人事交流の実施状況 平成26年10月1日現在。
167条では、副市町村長は市町村長を補佐し、市町村長の命を受けて政策・企画をつかさどり、その補助機関たる職員の担任する事務を監督することとされている。また、同条第2項に、市町村長の権限に属する事務のうち委任を受けたものについて、執行すると規定されている。
具体的には、市町村長に代わって業務の詳細についての検討や政策の企画立案を行なったりするほか、市町村長の判断が不要な重要でない事案、もしくは市町村長の委任を受けた事案についての決定や処理を行なう。複数の副市町村長がいる市町村では多くの場合、副市町村長ごとに担当分野が定められており、副市町村長は定められた分野に関して上記の職務を行なう。
改正地方自治法では長の事務の一部を委任を受けて執行できることが明確になり副市町村長の本来的役割に位置づけられた。市町村長は法令に特別の禁止規定がある場合や長の固有の権限や職務(議会の招集、条例の公布、主要職員の任命等)を除いて副市町村長に事務を委任できる。
副市町村長へ委任された長の事務は告示しなければならない(第167条第3項)。委任を受けた事務に関しては、その都度長の判断を仰ぐことなく、副市町村長が自らの権限と責任で執行することができる(第167条第2項)。
財政再生団体となった夕張市では2011年に副市長の職を廃止し、道から理事の派遣を受け、理事が副市長の職務を担う体制になっている。2020年10月1日現在、夕張市は北海道で唯一副市町村長を置いていない市町村、市で唯一副市町村長を置いていない自治体となっている。